二歩目の次へ──Slowly インタビュー(中編)

Masato KomatsuとRyo Kawaharaによる音楽ユニットSlowlyが、4年ぶりとなるニューアルバム『Two Steps Ahead』をリリース。
さまざまなサウンドをレゲエミュージックを軸にクロスオーバーさせるサウンドクリエイションがコンセプトのSlowlyだけに、今作では国内外のさまざまなアーティストが参加し、彼らにしかできない唯一無二の世界観を作り上げている。
ひきつづき、Masato KomatsuとRyo Kawaharaの二人に、新作アルバム『Two Steps Ahead』の制作に関してのお話を、ときどきFlower Recordsの高宮永徹氏を交えて聞いたインタビューの中編。


前回の記事はこちらより

─さて、今作のタイトル『Two Steps Ahead』、タイトル名の由来は?

Masato Komatsu(以下:M):コレはRyoくんとやって2枚目ということで「一応、2歩進んだぞ!」と(笑)。

─そういうことだったんですか(笑)。

M:そこは単純です(笑)。前作は音楽に根ざしたメッセージ性がありましたが、我々2枚目を出しまして、次にもうちょっと、さらに進めたいという意思表示も含めて、「2歩進みました!」というような意味合いです。

─タイトルはKomatsuさんが考えたんですか?

M:一応、相談して決めました。

─今作のコンセプトを教えてください。

M:もともとの我々のコンセプトと一貫しているのですが、レゲエというベースのなかでいろいろなジャンルとクロスオーバーさせることを目指していますので、レゲエのなかでもいろんな要素を入れたバラエティに富んだ作品にしようと。

─今作は11曲収録ですが、11曲にした理由はありますか?

M:前作が2枚組のアルバムで、でも、やはり歳をとるとひっくり返すのが面倒じゃないですか。

─えっ!そういう理由なんですか(笑)??

M:自分たちが昔聴いてきたアルバムって大体1枚なんですよ。もちろん2枚組もありましたが、末長く聞いているアルバムで2枚組ってけっこう少なくて、だから1枚に収まるようにしました。それもあって収録曲に少し起承転結をつけたくて、テンポとか曲調的にもユルい曲からディスコっぽい曲まで、バラエティに富んだ形ですが「でも、レゲエです!」という作りになっています。

─それでは1曲ごとの制作エピソードを教えてください。まずは「Bright Dub – Intro」。こちらは波の音からはじまってますね。

Ryo Kawahara(以下:R):この曲はモチーフがありまして。。。

M:モチーフの案を僕が出して、こういう曲調でとRyoくんにお願いしてまとめてもらいました。

─最初の波の音は、どちらかでフィールドレコーディングされたものですか?

R:あれはじつは新潟の。。。

M:じつは彼の奥さんも新潟出身で、そういう縁もあって「新潟といえば波の音だろ!」って(笑)。

─だいぶ日本海で、荒々しい感じのイメージですけれど(笑)。

M:そこはレコーディングのテクニックです(笑)。

R:あれはじつは糸魚川河口で翡翠(ひすい)探しで録った時の音なんです。

M:糸魚川といえば翡翠ですから(笑)。

R:砂浜じゃなくて玉石の浜なんですけれど、石の転がる音がする面白い海岸なのですが、そこで録りました。

M:佐渡もそうだけれど、玉砂利みたいな、そういう浜の場所が新潟にはいくつかあって、糸魚川もそういう感じだもんね。

R:そうなんですよ。

─そこの波の音を使いながら。

M:新潟に縁があるふたりがアルバム出すなら「そういうことだろ!」って(笑)。

R:完全に後付けですけれどね(笑)。

─ちなみに曲名の由来は?

M:聞いた感じが明るいなと、、、ブライトだったんですよ(笑)。やはりいまこういう暗い世の中だから、音楽を聴いている時だけは明るい気分になって欲しい、と言うことでブライトをつけました、、、ということにしておいてください(笑)。

A2 : Hatoba feat. Mahina Apple (Album Version)

─わかりました(笑)!2曲目は「Hatoba feat. Mahina Apple」のアルバムバージョンですが、コチラはシングルとの違いは?

M:ちょっとだけ長くしていまして。。。

R:構成を変えているんです。

M:もともとはこちらのアルバムバージョンを先に作っていたので、せっかくだし敢えてこちらのバージョンを収録した方がいいかなと。

─歌詞はMahina Appleさんが書かれたのですか?

M:彼女が書いてくれました。

─タイトルの「Hatoba」も?

M:そうです。もともと彼女が仮歌でつけてきたタイトルなのですが、「曲名をどうする?」という話をした時に、「Hatobaでもいいじゃないですか」と彼女に言われて、確かになと。さすがに漢字で「波止場」にすると演歌の世界っぽくなってしまうから、そこはローマ字にしました。Mahina Appleは福岡県の糸島が拠点で、そこにはすばらしい海岸があって、すごくいい街なんですよ。そういう場所で生まれ育ったから、Hatobaというタイトルにしたいという話があったので、それだったらということで採用しました。

A3 : Tell Me Something feat. Liliana Andrade

─それでは3曲目の「Tell Me Something feat. Liliana Andrade」。コチラはどんな感じで制作が進んだのでしょう。

M:これはアンダーソン・パーク(Anderson .Paak)のバックバンドのフリーナショナルズ(Free Nationals)が、クロニクス(Chronixx)というLAのシンガーをフィーチャリングした「Eternal Light」という曲がありまして、その曲がかなりすばらしい曲なんですね。Ryoくんとともにその曲に刺激を受けて、それをインスピレーションに自分たちなりの返答的な、勝手にアンサーソング的に書いた曲なんですよ。

─この曲の歌詞はどなたが書かれたんですか?

M:じつはコレ、Stones Throw Records(ストーンズ・スロー レコーズ)から出しているモッキー(Mocky)というアーティストがいるのですが、ひょんなことから彼が詞とメロディーを書いてくれたんです。もともとリリアナ・アンドレード(Liliana Andrade)はモッキーの曲に参加していて、それもあって彼女に声をかけたのですが、「私はポルトガル人で英語の歌詞が書けない」という返答があって、それで「モッキーに頼んでみる!」という話になり、そこからモッキーとやりとりがはじまって。。。で、彼が「じゃあメロも歌詞も書くよ!」という感じでやってくれたんですよ。

─なんだかすごい話じゃないですか!!

M:けっこう大変だったのですが、デモももちろん送って、そしたらモッキーが仮歌を入れてくれて、それをリリアナが聞いて歌ってくれたという曲です。

R:リリアナはとても声が良かったですよね。イメージにピッタリでした。

─ネットリとしたサウダージ感がある声ですよね。

M:そこはやはりポルトガル人ということもあって、サウダージ感はあるし、すごく良かったですね。ベースにクオシモード(quasimode)の須長(和広)くんが参加してくれて、彼がすごくいいベースを弾いてくれているので、それで曲としても締まった感じになりました。

─そういうミュージシャンのコンポーズ的な部分は、どうやってKomatsuさんの中で整理をされているのですか?

M:須長くんに関しては、抜群にベースがうまいので、ここぞという時にはお願いします。でも、Ryoくんの方でシンセベースとか、生ベースも弾いてもらうのですが、それで十分の曲も当然ありますし。演奏としてのテクニック的な部分が必要な時は、他の人にお願いしたりもしますね。

─ちなみにRyoさんは、キーボードのほかにもけっこうマルチプレイヤー的に演奏されるのですか。

R:いえ!プレイヤーという程ではありませんが、キーボードとギター、ベースは自分で弾いています。イメージした質感といいますか、他の人へ伝えるのが難しい場合もありますので、そういう時は自分で弾いた方が良かったり、少し演奏できると伝えやすかったりしますよね。もちろん、そのまま素材として使ったりする場合もありますから、頑張ってやっている感じです(笑)。

A4 : Our Sweet Embrace feat. Swish Jaguar

─さて、それでは4曲目の「Our Sweet Embrace feat. Swish Jaguar」ですが。

M:これはスウィッシュ・ジャガー(Swish Jaguar)と最初7インチを作った際、もともと2曲作る話をしていたんです。これも僕の方でこういう曲を作ろうというコンセプトのもと、Ryoくんにトラックを作ってもらってから彼にボーカルを入れてもらったのですが、その時にまたちょっとアレンジを変えて。。。ある意味セルフリミックス的なことを制作過程でもう一回作り直したという曲です。

─出来てきたものを、さらにリミックスしたということ?

M:ラフトラックを送って、そこからさらにアレンジを変えました。

─スウィッシュ・ジャガー氏にはどういう風にお願いしたのでしょう。

M:基本的には、トラックに合わせて彼の持ち味というかトークボックスを使って歌うことをお願いしました。もともとそういう彼のスタイルが好きだったので、おまかせでお願いしましたね。コレ、メロディは入れたんだっけ?

R:ガイドっぽい感じでは入れていますね。

M:それをベースに、彼の方で発展させて作った感じです。

─それで戻ってきたものを。。。

M:我々の方でさらにアレンジを変えました。

A5 : Dripping’ Summer feat. Mizuki Ohira

─なかなか複雑な制作過程だったんですね。では、5曲目の「Dripping’ Summer feat. Mizuki Ohira」ですが、コチラはどんな感じで制作が進んだのでしょう。

M:この曲は、もともとインセンスミュージックワークス(INSENSE MUSIC WORKS)から「1曲作りませんか?」というお話がありまして、それで作った曲なんですよ。大比良瑞希さんにナツっぽい曲を歌ってもらうということで作った曲です。最初に僕の方でモチーフを出しながらRyoくんにトラックを作ってもらって、それで歌入れしたのですが、彼女の歌入れが完璧すぎて。。。ほぼ一発録りだったよね??

R:そうでした。

M:僕たち的には勉強になったし、刺激になった曲ですね。この曲は『RELAXIN’ WITH JAPANESE LOVERS VOLUME 8』にもDub Mixの方を収録されていて、7インチ・シングルに収録しているe-muraさんによるDub Mixバージョンです。

A6 : Mirage Of You

─では、6曲目、A面の最後の曲になりますが、「Mirage Of You」はいかがでしょう。

M:この曲ももともとモチーフがあって、こういう曲を作ろうという感じで、ほぼRyoくんに丸投げです(笑)。

R:いままでのリリースの中でもけっこう気にいっているインスト曲ですね。いま作りたい感じ、雰囲気の曲です。

M:途中で「ヴォーカルを入れようか?」みたいなアイディアも出たくらいで、我々的には気に入っている曲です。でも、アルバム全体通すとインスト曲がもう少し欲しいかなというところでインストにしました。

─なるほど。Ryoさん的には満足の一曲という感じですか。

R:そうですね。最初にKomatsuさんにタネみたいなものはもらっているのですが、そこからいま自分がやりたい雰囲気を広げていったという感じです。

─ちなみに、いまやりたい雰囲気というのは具体的にどういう感じの曲なんでしょうか?

R:明るい曲を作りたいという感じですね。ほっこりというか、昼間に聴けるような曲です。

(後編へつづく)

前回の記事はこちらより

(インタビュー:カネコヒデシ(BonVoyage))


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