
壁に耳アリ、障子に目アリ、そして人に歴史アリ。
クレイジーケンバンド(以下、CKB)のマネージメントを行うダブルジョイレコーズ、そしてさまざまなアーティストのリリースを続ける、高宮永徹氏率いるフラワーレコーズ。ふたつのプロダクションが2025年に設立30周年を迎えた。
実は設立当初よりわりと深い交流をつづけている彼ら。ダブルジョイレコーズの横山 剣氏(CEO)と萩野知明氏(COO)、そしてフラワーレコーズ代表の高宮永徹氏の知っているようで知らなかった3人の関係性。
一体どんな繋がりではじまって、どんなことをやってきたのか。そしてドコへ向かうのか。。。
今回は、お三方による鼎談を、3回にわたって言える範囲でお届けします(笑)。

─ダブルジョイレコーズとフラワーレコーズ、お互いの設立がこの2025年で30周年ということですが、まずはどんなお気持ちでしょう?
横山剣(以下、剣):毎年なにかしらリリースをしていて、そういうルーティンというかシリーズ化みたいなモノがあると、本当にあっという間に過ぎました!
高宮永徹(以下、高宮):本当にそうですよね!
─(横山)剣さんと高宮(永徹)さんは、どのようなキッカケで知り合ったのでしょうか?
剣:最初のキッカケは幡ヶ谷にあったCLUB Bですよね?
高宮:もともとは萩野(知明)さんにご紹介いただきました。
剣:最初、高宮さんにリミックスアルバムの制作をお願いしまして、12インチのアナログレコードを95年にリリースしたんですよ。ダブルジョイレコーズを立ち上げて、すぐにやっていただきました!
高宮:剣さんにはじめてお会いしたのも、その時ですね。
剣:ただ僕と高宮さんはその時なのですが、萩野くんはその前から高宮さんと当時幡ヶ谷にあったCLUB Bで出会っていたんですよね。
萩野知明(以下、萩野):それより5年くらい前かな。
剣:さらに5年前(笑)!ということは、90年!?
高宮:ですね!いまのSCUBAの場所がもともとCLUB Bというお店で、現在は僕がオーナーでやっていますが、当時はただのスタッフだったんですよ。萩野さんがよくいらしていて、そこからのお付き合いです。

─萩野さんは、CLUB Bはどういった繋がりで行かれていたのですか?
萩野:僕は地元が幡ヶ谷なんですよ。それで高宮くんもまだお客さんで来る前くらいから、チョコチョコ遊びに行っていました。
高宮:僕も最初はお客さんだったのですが、当時のオーナーに「働いてよ!」って言われて。それで働きはじめたのですが、、、お給料をいただいたのは初日だけ(笑)。
─えー(笑)!!
剣:そんな感じだったんですか(笑)??
高宮:それ以降は、半年間タダ働き(笑)。あげくの果てにそのオーナーが行方不明になってしまい、当時のスタッフと僕の3人でお店の借金を返して、、、という感じでした。初代のオーナーと萩野さんは同い年でしたよね。
萩野:そうそう!同級だったんだよ。
剣:行方不明(笑)!
高宮:萩野さんは、その様子をずっと見届けていただいていたんです。
萩野:高宮くんが、ちょうどフラワーレコーズを立ち上げようとしていた時期くらいで。
高宮:ぎりぎり始まっていないくらいの時です。
萩野:まだ自宅で作業していた時代ですよね。その時に、僕らはちょうど『CRAZY KEN’S WORLD』というアルバムを作っていて、それで「リミックスをお願いしたい!」って相談したんです。
─それが95年ですか?
剣:そうです!
高宮:その時は自宅で作業していたからロクな機材もなく。。。しかもDATテープで素材をいただいたのですが、自宅のDATデッキも壊れていて。それで機械ごと萩野さんにお借りに行きましたね(笑)。そこではじめて剣さんとお会いしたんです。あのスタジオって、、、どこでしたっけ?
剣:杉並区の。。。
萩野:グリーンバード杉並だね。
剣:テイチクのスタジオですね。
高宮:そこでDATの機械ごとお借りしました(笑)。
剣:高宮さんのお話は、その前から萩野くんからお聞きしていましたよ!
高宮:あの時は、DATテープと機械を預かってからサンプラーにボーカルトラックを取りこんで貼り付けて、、、みたいな感じでリミックスをやったんですよ。
剣:その盤を作っていただいたお陰で、コモエスタ八重樫さんとか須永辰緒さん、小西康陽さん、クラブジャマイカのメンバー、みなさんにスピンしていただけたんです。地方でも回していただいたりして、それもあって最初はライブハウスからではなくクラブフィールドからカウンター的に反応がありました。
─95年とか96年の時代って、ライブハウスからだけではなくてクラブシーンからのカウンターみたいなカルチャーがたくさんありましたよね。
剣:80年代のMUTE BEAT周辺の方たちがそうだったように、僕も90年代に高宮さんに回していただいたことでクラブから始まって。。。
高宮:かなり話題になりましたよね!
剣:当時、メジャーのレコード会社に音源を聴いてもらっても、「何がやりたいのかわからない」って(笑)。でも、DJの人たちにはそれがどういうことなのかを分かってもらえていたんですよね。ミックステープの概念というか、グラデーションで音色が変わっていけば、この曲からこの曲という流れはまったく雰囲気が違うのにあり!みたいな。なんらかの関連性というか、リンクしていけば次の曲に移って変わっていっても良いという感じですよね。それが当時のレコード会社の人たちにはまったく理解してもらえず。本当に理解していただいていたのが高宮さんをはじめとするクラブのDJの人たちなんですよ。僕らに居場所を提供していただけて、とてもありがたかったです!
高宮:でも最初、萩野さんからお話をいただいた時は、クールスの方と聞いていたから「めちゃくちゃロックンロールなのかな?」って思っていました(笑)。
剣:経歴が余計ややこしいですよね(笑)。萩野くんもクールスだし。
萩野:高宮くんに須永辰緒さんを紹介してもらった時も、おもいっきりクールスの概念が強過ぎちゃって(笑)。みなさん、そんな感じでしたね。
高宮:だから音源を聴いてビックリ!みたいな。
─たしかに、「ロカビリーの人」というイメージは強いですよね。
高宮:ところが音源を聴いたらファンクだったり、アシッドジャズっぽいのもあったりで「おおー!」って。
─でも、クールスは山下達郎さんをプロデューサーにしていたり、ちょっとAORというか、ブラックミュージック的なアプローチもされていましたよね。
剣:わりとブラックミュージック寄りというか。ジェームス藤木さんというクールスの音楽的なリーダー、実質的音楽プロデューサーの立場の人がいて、ロックンロールはもちろんですが、ソウルフリークでロックンロールも含めて広い意味でブラック・ミュージックと捉えていた方でした。そこは達郎さんや大滝詠一さんと一緒で、系譜立てて聴くところが同じだったんですね。そういう部分に僕も影響を受けていました。だから、「いま何がヒップなのか?」ってなって、88年とか89年にロンドンに行って、ジャズファンクで踊るムーブメントに影響を受けたんですね。
高宮:ありましたね!
剣:それを体験したのですが、その時のバンドメンバーに話したら誰も理解してくれなくて、、、拒絶反応されました(笑)。
高宮:拒絶反応(笑)!
剣:JB’sとか言っても、みんな「んー?」って(笑)。
─以前、「スージー・ウォンの世界」はアシッドジャズがインスピレーションとおっしゃっていましたよね。
剣:ロンドンに行って、そういう音楽を聴いた後、まだ啓徳空港時代の香港にトランジットで寄ったのですが、着陸する時にメロディが浮かんだんです。そこにアシッドジャズの影響がアレンジに組み込まれて、それで「スージー・ウォンの世界」を作ったのですが、これを高宮さんに「リミックスしてほしい!」って。高宮さんだから絶対クールなリミックスになる!と思ってお願いしたら、フロアー対応の音にしてくれました。「ベレット1600GT」もフロアー対応にしていただいて、すごくうれしかったです!でも、いま初めて「自宅の機材だけでリミックスを作った!」って聞いてビックリしていますけれど(笑)。
高宮:サンプラー一台で作りました(笑)。
剣:あまりにも完璧だったので全然そんなことを思いもよりませんでした(笑)。
─高宮さんは、剣さん側からオファーをいただいた時に、どういうイメージが湧いたのでしょうか?
高宮:当時は、DJをやりながらミュージシャンと一緒に曲を作ったり、いろいろやっていた時代なのですが、それで萩野さんからお話をいただいて、元の音源を聴いた時に「コレだったらできそう!」って。それで「やります!」って言ったものの、実際は「どうしよう、、、」って思っていました(笑)。
剣:ははは(笑)。
高宮:まだ僕の環境ではPCもない時代でしたから、サンプラーとコルグのM1のラックの音源モジュールで、ローランドのシーケンサーで作りましたよ。
剣:シーケンサーが言うことをきかない頃のヤツですよね(笑)!
高宮:そうそう(笑)!それでたしか8トラのオープンリールを使ったんです。
剣:いただいたデモ音源の音がとにかく抜群に良くてですね、大音量でクラブで聴いた時の重低音が「これーっ!!」って。ジャマイカのサウンドシステムくらいの音でしたね。
高宮:いま聴くとすごく恥ずかしいんですけれどね(笑)。

─クラブミュージックとライブの音楽とで、圧倒的に違うのが大音量で聴いた時のクオリティというか、バランスの良さだと思うのですが、そこが良かったということですね。
剣:そうですね!
─その辺りの感覚の部分は、高宮さんはどのように意識されたのですか?
高宮:正直、覚えていないです(笑)。
剣:だははは(笑)。
高宮:当時はスキルもあまりなかったですから。
剣:とてもそうは思わなかったです!
高宮:トラックを作ってカセットに録って、クラブの現場でオープン前に流してって。そんな感じで作ったと思います。
剣:高宮さんがフラワーレコーズで手がけた音源の音質が本当にクリアで、音のニュアンスが繊細なのでそこにもグッとキましたね。丁寧で上質なクラブミュージックという印象を受けました。
─そこからお仕事をオファーされるようになったのですか?
剣:その後、2004年に「あぶく」という楽曲を出したのですが、それをシングルで出す際にアルバム用とシングル用でミックスをやり直したいと思ってですね、シングル用の音源を高宮さんにお願いしました。実はこれ、(山下)達郎さんが関西のラジオ番組で褒めてくれたんですよ!
高宮:えー!そうなんですか!!はじめて聞きました!!!
剣:もう、すごくうれしかったですね!
高宮:それはうれしいです!
剣:アルバムもシングルもそれぞれの良さがあるのですが、シングルはスコーンと抜ける感じが良いと思いまして、高宮さんの繊細な音なら間違いないだろうと。それでお願いしたのですが、すばらしい音でした!
高宮:あと、『肉体関係』のマンモスEPもありましたね!
剣:2001年ですね。2000年にCKBで『ショック療法』というアルバムを小西(康陽)さんのレーベルReadymadeから出したのですが、その翌年は動きながら休憩するような感じでした。それでリリースはせずにダイジェスト版みたいなものを作ろうと思って、マンモスシングルって言い方をしたんです。21トラック入りのシングルで『肉体関係』。ここで「ナニをやろうかな?」と思った時に、高宮さんと他の方のリミックスとか、高宮さんと一緒にCKB-Annex名義でやったりしたんですね。そういう感じでご一緒できたので、さらに「CKB側でできることがないかな?」と。そこでいくつかの曲のリミックスと、渚ようこちゃんとのデュエットナンバーの「かっこいいブーガルー」ですね、その音をその場で作ったりと、フラワーレコーズのスタジオありきのマンモスシングルでした。
高宮:アナログ12インチは2枚組でしたもんね!
剣:その次のマキシシングルの「せぷてんばぁ」は、近田春夫さんがすごく絶賛してくれたのですが、これはスタジオで高宮さんにもう一回微調整していただいた時に、出す前にリミックスしちゃったという曲で(笑)。相模原のスタジオでメンバーでセーノで録ったものをお渡しして、各パートを差し替えたりダビングしたりしましたね。
高宮:やりましたね(笑)!
剣:あのドラムって、、、ループでしたっけ?
高宮:いろいろ編集しています!
剣:切り刻んだり、いろいろ。オリジナルはフォーキーかつボッサな曲なんですけれど、それをクラブ対応にしたいと。でも、それをできるのは「高宮さんしかいない!」ってお願いして(笑)。それが「せぷてんばぁ」という曲です。
高宮:あの頃、フラワーレコーズのスタジオが中目黒にあった時代なのですが、けっこういろいろやってましたよね。
剣:もうナニかとやりましたよ!CKB-Annex名義でキリンジのリミックスとか、パフィーのリミックス、マツケンサンバのリミックス、それから「太陽にほえろ」のリミックスとか。
高宮:「太陽にほえろ」!!ありましたねー!
萩野:あとは日之内エミ。映画の劇伴とかもやりましたね!
高宮:そうですね!
剣:たくさんのお仕事をご一緒させていただきまして、ツーといえばカーと返ってくる感じ、というか、カーどころじゃなくでガーンって返ってくる(笑)!プラスアルファのアイディアを出して返してくださるから、それもまたうれしかったんです。急にダブみたいになっていたり、いろんな技を駆使していただき、本当に助けていただきました。それ以降も7インチでシングル化する時とかのマスタリングをお願いしたり。
高宮:いろいろお世話になりました(笑)!
剣:シーモネーター(SEAMO)の(須永)辰緒さんがリミックスした『OH! SEAMO -どっかで聞いた事があるとかないとかREMIX-』にMCで入ったり。あとは辰緒さんのCKBのミックスCDとか。
高宮:大久保にまで行って音を録りましたよね(笑)。
剣:コリアンタウンのインタビューしたり。
高宮:なつかしい!
剣:本当にもうフラワーレコーズさんとは、角角で協力していただいてて。『好きなんだよ』というカヴァーアルバムから、またご一緒するようになりましたよね。
高宮:少し間が空いていたのですが、お声がけいただいてすごくうれしかったですよ!
剣:『火星』は、「音がいい!」って『サウンド&レコーディング・マガジン』(以下、サンレコ)で絶賛されたんですよ。
高宮:実は『火星』以降、何回かサンレコさんから製品レビューの依頼をいただいて書いてます(笑)。
剣:いいですね!あとはReggae Disco RockersがCKBの曲を再演に近い感じで演奏リミックスしてくれたり。
高宮:Slowlyもやりましたね。
剣:フラワーレコーズから出ている作品は、自分好みの音を出すというイメージがあります!
(中編につづく)
(インタビュー:カネコヒデシ(BonVoyage))
[プロフィール] 
・横山 剣(よこやまけん)
クレイジーケンバンド・リーダー/作曲・編曲・作詞・Keyboards・Vocal
小学校低学年の頃より脳内にメロディーが鳴り出し独学で作曲を始める。
1981年クールスRCのヴォーカル兼コンポーザーとしてデビュー。以後、紆余曲折を経て1997年春、地元本牧にてクレイジーケンバンドを発足。2005年に『タイガー&ドラゴン』が同名ドラマの主題歌として大ヒットした。
2025年9月3日には25枚目となる最新アルバム『華麗』をリリースした。
OfficialWeb Site: https://www.crazykenband.com
Instagram: https://www.instagram.com/crazykenband_official
X: https://x.com/CKB_official
Facebook: https://www.facebook.com/CRAZYKENBAND.Official
YouTube: https://www.youtube.com/@ckb
・萩野知明(はぎのともあき)
1959年 東京生まれ
1977年にクールスRCにスタッフとして活動を開始。
1981年よりクールスRCのベーシストとして参加。
1995年には横山剣とともにダブルジョイレコーズを設立。今年30周年を迎える。


CRAZY KEN’S GROOVE TRAX
2025年11/8(土) 発売予定
定価¥4,180(税抜価格¥3,800)
A side
01. 中華街大作戦
02. BELLETT1600GT LUCKEY’S TUNE remixed by Eitetsu Takamiya
03. SUMMER PEOPLE(Remix)Remixed by Motoki Kamihata
04. KROW KAT FUNK
B side
01. THE WORLD OF SUZIE WONG(Coaster’s dub)Remixed by Eitetsu Takamiya
02. THE WORLD OF SUZIE WONG
03. LOVE ROCKET



