横山 剣と萩野知明、高宮永徹による30周年記念鼎談! ダブルジョイレコーズとフラワーレコーズが設立30周年!ソウル電波で共鳴する男たち(中編)

クレイジーケンバンド(以下、CKB)のマネージメントを行うダブルジョイレコーズ、そしてさまざまなアーティストのリリースを続ける、高宮永徹氏率いるフラワーレコーズ。ふたつのプロダクションが2025年に設立30周年を迎えた。

引き続き、ダブルジョイレコーズの横山 剣氏(CEO)と萩野知明氏(COO)、そしてフラワーレコーズ代表の高宮永徹氏の知っているようで知らなかった3人の関係性を、赤裸々に(!?)語っていただいた鼎談の中編。

前回の記事はこちらより

─ミックスとマスタリングに関してですが、出来上がったデモを剣さんにお送りした時に、剣さん側からはどのような感じの要望をされているのですか?

横山剣(以下、剣):「もうちょっとこうしたい!」、「アレしたい!」というやりとりはしますが、いつも良い形で着地ができていますね。

─高宮さん的に音色のバランスの取り方の部分において、なにかコツのようなものがあるのでしょうか?

高宮永徹(以下、高宮):CKBだからどうというのは実はあまりないです。普段とそんな変わらないといえば変わらないですね。わりとタイトなスケジュールの中で進行していて、バンドはバンドでずっとレコーディングをされていて、レコーディングで録った音がどんどん追加されていく感じなんですよ。

剣:大変(笑)!

高宮:それを僕がひとり作業である程度まとめて、あらかた出来たところでスタジオに入って作業、という感じです。最終的に一緒に調整して仕上げていくという流れですね。剣さんが下の音(低音)の出方にこだわりがすごくあるので、そこはダンスミュージック的な感じで、いわゆるJpopっぽくない音だと思うんです。逆にJ-popっぽい感じが僕的に分からない部分もあるから、そういう意味ではすごくやりやすいですよね。

剣:例えば、ミキサーさんのミックスで一回終わって、マスタリングのエンジニアに渡す過程で多少の誤差が生じたり、ブレがあることもあるわけですね。でも、ミックスのエンジニアもマスタリングも同じ人というのが、コレがやっぱりいいのかも!

高宮:でも、あまり例がないですよね。

剣:あまりないです!せっかくミックスで良かったのに、マスタリングで「ムムム!」というのがよくあったんですよ。でも、ミックスの状態である程度見えているからそれがない。マスタリングでさらに微調整で済むくらいで、そこは絶対ブレないですよね。

高宮:ちなみに、最初に『好きなんだよ』のアルバムプロジェクトに参加させていただいた時って、「レコーディングを少しとミックスを」というお話だったのですが、途中から「マスタリングも!」って(笑)。

剣:「お願いします!」って(笑)。

高宮:「えー!いいんですか??」みたいな、もちろん嬉しかったのですが、めちゃくちゃ責任重大じゃないですか!もう冷や汗をかきまくってましたよ(笑)!

剣:でも、その選択は間違いではなかったです。それがここ数作、ずっとお願いしている感じにつながっていますよね。あとビックリしたのが、ミックスの時に一度録った音をアナログに入れて、またデジタルに戻してという、すごく大変なプロセスを経て出来上がるんです。その辺のこだわりとかもアルチザン(職人)というか。

─デジタルで録ったものを一回アナログに戻すんですか?

剣:はい。

高宮:ミックスダウンをしてファイナルミックスに仕上げるじゃないですか。そこからマスタリングするのですが、マスタリングする時にオープンリールテープに録音して、そこからもう一回取り込み直してって。

─すごく大変な作業じゃないですか!

剣:ですよね!

高宮:フラワーレコーズの音源ってわりとそういう作業をやっているんですよ。エフェクターのひとつとして使っている感じですかね。

─ちなみに、その過程を通ることでどんな感じの音になるのでしょう。

高宮:えーとね、ノイズがすごく増えます(笑)。

─逆に生な音の感じになるということですかね。

高宮:適度に丸くなる感じはあると思います。

─角を取るみたいな。

高宮:なおかつ、そのままでやるのと、一度アナログを通したものとでは、マスタリングの際にEQを触った時の感じが違うんですよね。EQのかかり具合が違うというか。。。

剣:高宮さんだけの秘伝のタレじゃないですけれどね(笑)。

─まさに秘伝のタレですよね(笑)!

剣:独自で開発されている感じですよね。耳に優しい感じが大人のサウンドに対応するために、もちろんクラブフィールドのベクトルではあるのですが、そこでわりとアダルトが楽しめるような音楽の質感を出すために、すごく工夫されたんだと思います。

高宮:自分ができる範囲の中で、どれが最適なのかを探って探って、という感じですね。

─DIYですね。

高宮:あまり理解されないことも多いんですけれどね(笑)。剣さんに理解していただけて、すごくありがたいです!

剣:僕は、、、”ソウル電波”って勝手に名前をつけていますが、”ソウル電波”がビリビリくるかこないか、というのがひとつの基準としてあるんですよ。60年代の音楽でも現代の音楽でもそれがあればジャンルは関係ないみたいな。高宮さんが手がけた作品には、必ずソレを感じるんです!

高宮:なんか、、、汗が(笑)。

剣:そこはなかなか人には説明しても伝わらないんです。

─感覚の部分ですもんね。

剣:そうなんですよ!その波動が伝わるかどうかってのが。

─まさに”ソウル電波”ですよね。

剣:ノーザンソウルが良いとか、ソウルミュージックにシビれたのも全部そこなんですね。だから、DJの人を信用できるっていうのはそこの部分で、僕らは作り方のセンスですが、DJの人は聴き方のセンスを提案しているところがカッコイイ。僕らはサウンドを作って、DJの人は聴き方、耳が勝負なので、スピンして貰えばきちんとお客さんに届く。既存のシーンでは、僕らは邪険に扱われたんですけれどね(笑)。

高宮:邪険(笑)!

剣:下の下の扱いをされて(笑)。でも、クラブシーンでは本当に可愛がっていただいて。それこそ昔、ターンテーブルがあるバンドをやっていた時はライブハウスにすごく嫌がられましたし。そういう意味でも僕らが音楽をやるということの意味で、DJの方々にはリスペクトがあります。

─CKBの音の作り込み方におけるミックスの部分で、高宮さん的に調整している部分って、なにか思い当たるコトはありますか?

高宮:剣さんが目指しているサウンドって言葉で説明するのは難しいんですけれど、一緒に作業をしていてすごく理解できるんですよ。だから、それほど何かを特別にしているというものはなく、わりと自然です。リズムがとてもしっかりしていてベースがガツっとある、みたいな。でも、そこってダンスミュージックにおいてはとても大事な部分じゃないですか。CKBの音だからこうしているというのは、あまり意識していないかもしれないです。

剣:素材として、きちんと調理してくれますからね。

高宮:ただ、アレンジを聞いた時に「あ!この辺から元ネタがきているかな?」みたいな、、、そこはけっこう感じますね(笑)。

剣:音楽をたくさん知っているから、求めているタイプのジャンルの音楽を知らないとなんですよ。何をオマージュしているのかが、高宮さんにはすぐ分かる。「これはハイサウンドですか?」みたいな(笑)。そこが嬉しいわけですよ!

─それってすごく重要ですよね!

剣:重要なんです!普通のエンジニアさんだとそこがない。もちろん技術的にテクニックがあっても、感性の部分で伝わらないと実現できないですよね。

─やはりおふたりの”ソウル電波”が共鳴しあっているんですね(笑)。

剣:「周波数が合った!」みたいな(笑)。説明のしようがないんですよね。あまりにも普通にそれをやってきたので、あらためてこうやって言われると「なんでだろう?」って。無理がないというか、自然にそうなったという感じですね。

─高宮さんと剣さんの音楽的知識の部分で、なんとなく一緒の部分が大きいのかなと思いました。

高宮:かもしれないですね。

剣:そうなんでしょうね。

高宮:そういえば、5年前に『好きなんだよ』の制作で、久しぶりにスタジオでご一緒させていただいた時に、クルアンビン(Khruangbin)の話で盛り上がりましたよね。

剣:クルアンビンって誰も反応しなくて孤独だったのですが、「あのスカスカのサウンドが!」って、やっと通じてくれる人がいて(笑)。

高宮:その時まで随分とお会いしていなかったのに(笑)。

剣:いきなりクルアンビンの話でね。

高宮:でしたね!

─趣味的な部分がナニかしら合っているからこそ、アルバムのミックスとマスタリングのクオリティが保たれているんしょうね。

剣:意図していることが伝わっていますよね。しかもプラスアルファで必ずサムシングエルスみたいなものがある。高宮さんはそこが大きいんですよ。

高宮:アルバムというボリュームで一定の期間、集中して作業するので、僕にとってもすごく大事な時間になっていますよね。そこでまたワザ的な部分におけるいろんな発見もあってとてもありがたいです。フラワーレコーズの音源って、シングルが多くて、わりとひとつが終わったらまた次!ってなるのですが、アルバムというボリュームでやると、例えば、1曲目、2曲目、3曲目って触って、4曲目くらいで「これは!」ってなってまた前の曲に戻って、浮かんだアイディアを反映させたり。そんな感じでいろいろできるから、僕にとってはとても良い時間なんです。

剣:先輩のスカのバンドで、エンジニアさんもメンバーのひとりとしてやっているバンドもいますから。分業ではなく一緒に作っているというコトなんですよね。そういうコトができるのは、圧倒的にほかのエンジニアさんとは違う。

─ということは、、、高宮さんはすでにCKBのメンバーってことですね(笑)!

高宮:ははは(笑)。

剣:僕らもいろんなアルバムがありますけれど、一緒にやっているものはメンバーですよ!もうひとり、グラサンパークというバンドのParkくんという、アレンジとトラックメイカーでベーシストでもある彼が、メンバーじゃないけれど第12のメンバーみたいな立ち位置でいるんです。そういう気持ちでやらないと、そういう音にはならない。僕はメンバーに伝えるのがヘタで、彼がロジカルにメンバーに伝えてくれているんですよね。高宮さんもわかってくれている。通訳なしは珍しいんですよ(笑)。

高宮:通訳(笑)!

剣:MCを入れてもらったり、いろんな無理なお願いも聞いてもらって。

高宮:Parkさんも本当すばらしいミュージシャンで、アレンジャーですよね。メンバーの方々みなさん、面白いですよね、刺激的ですし。

─つねに新しい音を生み出す作業を続けているワケですよね。

剣:流行はともかく、その時にフレッシュに思える音質というのがその時その時であるのですが、きちんと実現したい。それがかなり実現できているので、幸せなことだと思っています。いろんな都合だったり、仕組みとか政治だったりなんだったりでできない人も多いと思うのですが、そういうのがないから本当に自由で幸せですよ。

─お互い良い時間を過ごされてきたんですね。

剣:そうなんですよ!だから、レコーディングが終わると寂しくなっちゃう(笑)。

高宮:ははは(笑)。

剣:僕は何度もやり直すことが多くて、マスタリングを違う人にお願いした時とかは、マスタリング当日に曲順変えたりとか、歌詞を変えたりとか(笑)。

─えっ!!歌詞ですか(笑)!?

剣:だから歌を入れ直して(笑)。マスタリングエンジニアは大変ですよね。でも、その人は高宮さんも知っている人ですが、ずっとアメリカでやられていた方で、かなりファンキーな感覚があるから「そうこなくっちゃ!」みたいなことを言ってくれたんですよ。

─ファンキーすぎです(笑)!

剣:まあ、いろいろ経てですね、いまは高宮さんにお願いしているという。高宮さんにしてみれば「いきなりマスタリングって!」という感じだったかもしれませんが、僕ら的には自然の流れなんですよね。

─流れ流れて高宮さんにたどり着いた、という感じなんですね。

剣:もうひとつ。99年にセカンドアルバム『goldfish bowl』を出す時に、クラブフィールドの人からのプロモーション用のコメントをいただきたかった時に、高宮さんにお願いして、須永さんはじめ、いろんな方々にお願いしにオルガンバーに行ったコトがあったんです。でも、そのコメントのお陰で広がったんですよね、

萩野知明(以下、萩野):とにかく最初のアルバムの時に、高宮くんからレコードをいろんな人に撒いてもらったのですが、ソレが大きかった!

高宮:箱で我が家に届きました(笑)!

剣:箱で(笑)!

萩野:「おねがい!」ってね(笑)。

高宮:「みんなに配って!」って、「わかりました!」って(笑)。

剣:そこから広がったので、本当にありがたいことでした。あと須永さんにもミックステープの『Organ b.SUITE No.7』にCKBの曲を入れていただいたことで、オルガンバーのお客さんにも「CKBってこんな感じだったんだ!」って。それまで昭和的コミックバンドみたいな偏見があったのですが、きちんと音楽として聴いてもらえるようになった。高宮さんにはいろんな方をご紹介いただいて、それがキッカケになって『MARQUEE』とかそういう雑誌でも扱ってもらえたんです。

─相乗効果で広がっていったということなんでしょうね。

(後編につづく)

(インタビュー:カネコヒデシ(BonVoyage))

[プロフィール]
・横山 剣(よこやまけん)
クレイジーケンバンド・リーダー/作曲・編曲・作詞・Keyboards・Vocal
小学校低学年の頃より脳内にメロディーが鳴り出し独学で作曲を始める。
1981年クールスRCのヴォーカル兼コンポーザーとしてデビュー。以後、紆余曲折を経て1997年春、地元本牧にてクレイジーケンバンドを発足。2005年に『タイガー&ドラゴン』が同名ドラマの主題歌として大ヒットした。
2025年9月3日には25枚目となる最新アルバム『華麗』をリリースした。

OfficialWeb Site: https://www.crazykenband.com
Instagram: https://www.instagram.com/crazykenband_official
X: https://x.com/CKB_official
Facebook: https://www.facebook.com/CRAZYKENBAND.Official
YouTube: https://www.youtube.com/@ckb

・萩野知明(はぎのともあき)
1959年 東京生まれ
1977年にクールスRCにスタッフとして活動を開始。
1981年よりクールスRCのベーシストとして参加。
1995年には横山剣とともにダブルジョイレコーズを設立。今年30周年を迎える。

CRAZY KEN’S GROOVE TRAX

2025年11/8(土) 発売予定
定価¥4,180(税抜価格¥3,800)

A side
01. 中華街大作戦
02. BELLETT1600GT LUCKEY’S TUNE remixed by Eitetsu Takamiya
03. SUMMER PEOPLE(Remix)Remixed by Motoki Kamihata
04. KROW KAT FUNK

B side
01. THE WORLD OF SUZIE WONG(Coaster’s dub)Remixed by Eitetsu Takamiya
02. THE WORLD OF SUZIE WONG
03. LOVE ROCKET

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